有りがたうさん

清水宏監督による松竹キネマ映画『有りがたうさん』(1936年)。伊豆半島の天城街道を走る路線バスで皆から「有りがたうさん」と愛称で呼ばれて慕われる運転手とその乗客たちを描く。原作は川端康成の掌編小説集『掌の小説』中の「有難う」。英題: Mr. Thank You。写真は有りがたうさん(上原謙)。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

ときは1935年。世界恐慌の影響で日本中が長引く不景気に沈んでいた。そうした中、伊豆半島を走る路線バスに有りがたうさんと呼ばれる運転手がいた。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

当時の道は狭い。路線バスは路上の人にクラクションを鳴らし、道を譲ってもらう。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

その運転手(上原謙)は道を譲ってもらうたびに片手を上げて、明るく「ありがとう」とお礼をいう。それで皆は彼を有りがたうさんと呼ぶ。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

ある日、始発の待合所で出発を待つ乗客のなかに東京に身売りに行く17歳の娘(築地まゆみ、奥右)とその母親(二葉かほる、奥左)がいた。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

休憩中の有りがたうさんは煙草を吸いながら、母娘の話を聞いている。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

娘と母親は一番奥の席に座る。有りがたうさんは母娘を気遣って、「前の方が揺れないんだよ」と前の席を勧める(一番上の写真)。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

だが、発車間際に乗ってきた髭の紳士(左)と黒襟の女(中)がその席に座ってしまう。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

水商売風の黒襟の女(桑野通子、右)は伝法な口をきき、有りがたうさん(左)にたびたび話しかける。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

髭の紳士(石山隆嗣、右)や他の男性客は若い娘が気にかかる。どこに行くのか訊いたり、横目でチラチラ見たりする。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

世の中は不況である。途中、街道を歩いて村に帰って行く失業者の一行とすれ違う。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

有りがたうさんが親切なことは皆知っている。道を歩いていた旅芸人から言伝てを頼まれる。別の娘からは流行歌のレコードを買ってきてくれるように頼まれる。傍らの髭の紳士はバスが遅れると小言をいう。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

途中、下りのバスとすれ違う。そのバスには身売りする娘の知り合い(忍節子、左)とその父親(河村黎吉、右)が乗っていた。東京見物の帰りだという。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

知り合いが東京見物が楽しかったと話す声に娘の顔が曇る。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

有りがたうさんも黒襟の女も心配そうに娘を見る。以下略。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)
 
路線バスの車内には温かい人情が漂う。この作品の舞台は下田から三島に向かうバス路線。車窓からの風景をのんびり見ていると、自分も乗客の一人になったような気分になる。
清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

この映画は二・二六事件の最中の1936年2月27日に公開されている。


Mr. Thank-You / 有りがとうさん (1936) (EN/ES/IT/BR) - YouTube
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