清水宏監督による松竹キネマ映画『有りがたうさん』(1936年)。伊豆半島の天城街道を走る路線バスで皆から「有りがたうさん」と愛称で呼ばれて慕われる運転手とその乗客たちを描く。原作は川端康成の掌編小説集『掌の小説』中の「有難う」。英題: Mr. Thank You。写真は有りがたうさん(上原謙)。
ある日、始発の待合所で出発を待つ乗客のなかに東京に身売りに行く17歳の娘(築地まゆみ、奥右)とその母親(二葉かほる、奥左)がいた。
娘と母親は一番奥の席に座る。有りがたうさんは母娘を気遣って、「前の方が揺れないんだよ」と前の席を勧める(一番上の写真)。
水商売風の黒襟の女(桑野通子、右)は伝法な口をきき、有りがたうさん(左)にたびたび話しかける。
世の中は不況である。途中、街道を歩いて村に帰って行く失業者の一行とすれ違う。
有りがたうさんが親切なことは皆知っている。道を歩いていた旅芸人から言伝てを頼まれる。別の娘からは流行歌のレコードを買ってきてくれるように頼まれる。傍らの髭の紳士はバスが遅れると小言をいう。
途中、下りのバスとすれ違う。そのバスには身売りする娘の知り合い(忍節子、左)とその父親(河村黎吉、右)が乗っていた。東京見物の帰りだという。
路線バスの車内には温かい人情が漂う。この作品の舞台は下田から三島に向かうバス路線。車窓からの風景をのんびり見ていると、自分も乗客の一人になったような気分になる。
この映画は二・二六事件の最中の1936年2月27日に公開されている。
Mr. Thank-You / 有りがとうさん (1936) (EN/ES/IT/BR) - YouTube
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