新藤兼人著『三文役者の死』(1991年、岩波書店)。副題「正伝 殿山泰司」。交友50年の新藤兼人による稀代のバイプレーヤー、殿山泰司の評伝。
タイちゃんこと俳優殿山泰司は、1989年(平成元年)4月30日午後3時5分、神田駿河台三楽病院709号室で永眠した。病名は肝不全。享年74歳。
わたしは10日ほど前から、1階下の603号室に緑内障の治療のために入院していて、彼の死に立ち会うことになった。
2日まえから、タイちゃんの意識は混濁して、うつつのなかをさまよっているようだった。赤坂の内妻の井畑すず江が付き添っていたが、ときどき口を動かすのみで反応がない。すず江が手を握るとうつろな目でその方向を見るのだが、すぐに閉じてしまう。
(引用ここまで)
殿山泰司が役者になり、やがて2人の内縁の妻を持つようになった経緯や、ジャズやミステリに親しむようになったきっかけなどが描かれる。新藤兼人、吉村公三郎、殿山泰司らが設立した独立プロである近代映画協会の内実や、新藤作品の製作現場の様子なども当然ながら臨場感がある。
新藤兼人はたまたま殿山泰司と同じ病院に入院していたかのようにさらりと書いているが、入院したのは殿山が先であり、殿山泰司の最期に付き添うために三楽病院に入院したのだろう。2人の間柄が偲ばれる。
余計なことだが、この三楽病院の7階には自分も2回入院した。
三文役者の死/新藤 兼人|岩波現代文庫 - 岩波書店
初め同時代ライブラリーとして刊行されたが、現在は岩波現代文庫から出ている。

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