ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書』(講談社、2019年)。米国の女性小説家ルシア・ベルリンの短編小説集。自伝的な私小説。ルシア・ベルリンは1936年にアラスカ州に生まれ、2004年にカリフォルニア州で亡くなった。原題: A Manual for Cleaning Women。
例えば、第1編の「エンジェル・コインランドリー店」はこんな風に始まる。
背の高い、年寄りのインディアンだった。色のあせたリーヴァイスに見事なズニ族のベルト、真っ白の長い髪を後ろに束ねてラズベリー色のひもで結んでいる。奇妙なのはここ一年ほど、このインディアンとわたしがいつも同じ時にエンジェル・コインランドリー店に来ることだった。同じ時刻というわけではなかった。こっちは月曜の朝七時に行くこともあれば金曜の夕方六時半のこともあるのに、いつ行っても向こうが先に来ていた。
同じく「喪の仕事」の冒頭。
私は家が好きだ。家はいろいろなことを語りかけてくる。掃除婦の仕事が苦にならない理由のひとつもそれだ。本を読むのに似ているのだ。
「さあ日曜日だ」では刑務所での文章作成の講師(ルシア・ベルリンは実際にその経験があった)が次のようにいう。
「あたしはあんたの内面なんか屁とも思っちゃいない。あたしは文書の書き方を教えに来てんの」。
「ただ頭がいいとか才能だけじゃない。魂の気高さなのよ。それがある人は、やると心に決めたことはきっと見事にやってみせる」。
「あとちょっとだけ」はメキシコで死に瀕した妹を介護する話だが、妹が亡くなって7年後に主人公は次のように思う。
ほかにも、おおぜいの人が逝ってしまった。昔は誰かが「夫を見失った(ロスト)」などと言うのを変に思ったものだ。でも本当にそんな感じなのだ。その人が行方不明になってしまったような。
『掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集』(ルシア・ベルリン,岸本 佐知子):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部
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