荒木一郎による自伝的な青春小説『ありんこアフター・ダーク』(河出書房、1984年)。最初の東京オリンピックの前夜、具体的には1960年から1964年にかけて渋谷百軒店のジャズ喫茶「ありんこ」にたむろしていた高校生の「僕」や不良少年たちのジャズやハイミナールにまみれた日々を描く。
「僕」には荒木一郎自身が投影されている。彼は『あとがきのかわりに』で「私にとっては、そのあたりが青春時代であり、この小説に書いたことのほとんどが、いや全部がといっていいだろう、実際の話である」と記している。
荒木一郎とは生まれ育った場所も年代も違う。1960年代初頭の渋谷に巣くう不良たちの世界など知る由もない。だが、当時の雰囲気が伝わってくるように感じる。
『あとがきのかわりに』では「私は、いつか小説を書こうと思った。そこ(ありんこ。私註、以下同じ)に起こった、その路地裏(百軒店)で起こったいくつもの出来事、いくつもの青春をこの音(モダンジャズ)にのせて書いてやろうと思った」とも書いている。
たしかにこの小説からはモダンジャズの音が流れてくる。ちょっと不思議な作品だった。
タイトルはジャズ・トロンボーン奏者カーティス・フラーの演奏する「ファイブ・スポット・アフターダーク(Five Spot After Dark)」をもじっている。ファイブ・スポットはかつてニューヨークにあったジャズクラブであるファイブ・スポット・カフェの通り名。ありんこも実在したジャズ喫茶である。
ありんこアフター・ダーク | 書籍 | 小学館
2014年に小学館文庫で再刊された。文庫版の装丁は和田誠。
Curtis Fuller - Five Spot After Dark - YouTube
この曲を作曲したベニー・ゴルソンがテナーサックスを吹いている。
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