貨幣

デニス・ロバートソン(Dennis Robertson)の著書『貨幣(Money)』(初版1922年、第4版1948年)の日本語訳(岩波書店、1956年)。安井琢磨と熊谷尚夫による共訳。ロバートソンは1890年に生まれ、1963年に亡くなったイギリスの経済学者。初め古典学を学び、途中で経済学に転向した。詩作をよくし、アマチュア演劇に親しんだ。

このような古ぼけた貨幣論の入門書をなぜ持っているかというと、各章の冒頭に置かれたルイス・キャロルの『かがみのうら』や『不思議の国のアリス』からの引用が洒落ているからである。ロバートソン自身も「第四版への序言」で「主として各章の見出しのお陰で、いまだに売れ行きを見せている」と書いている。以下にその一部を引く。

第2章 貨幣の価値
「わしが使う言葉は」と、ハンプチ・ダンプチはけいべつしたような口調でいいました。「そっくりわしが勝手に考えたとおりの意味になるのだ-それより、ましもへりもしないのだ。」
「問題は」と、アリスはいいました。「あんたが言葉にそういろいろと違った意味がつけられるかどうかということよ。」
「問題はだ」と、ハンプチ・ダンプチがいいました。「どちらが勝つか-それだけのことさ。」(『かがみのうら』)

第5章 貨幣と節約
そこでそれの教訓は-「自己に厚ければ他人に薄し」(『不思議の国のアリス』)

第8章 景気循環の問題
はじめアリスが一ばんむずかしいと思ったのは、ベニヅルを扱うことでした。……いつでも、その首をまっすぐに延ばさせて、頭でハリネズミを打とうとすると、この鳥は首でくるくるとぐろを巻いて、アリスの顔をじっと見上げるのでした。(『不思議の国のアリス』)

第10章 用語、思考、および行動の問題
「こんな連中どもの話しかたといったら、ほんとうにうんざりするわ。もう気が狂いそうになってしまう」と、アリスは口の中でつぶやきました。(『不思議の国のアリス』)

見出しだけでは申し訳ないのでときどき本文も読む。ただ、貨幣に求められる基本的な要件や第一次世界大戦前後の金融市場に関する話題が多い。興味を持ち続けるのに難儀する。


デニス・ロバートソン著、安井琢磨・熊谷尚夫訳『貨幣』(岩波書店、1956年)
Dennis Robertson - Money

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