宇ち多゛

「宇ち多゛(うちだ)」は京成立石駅南口を出てすぐの仲見世商店街にあるもつ焼き屋。この店はなぎら健壱『東京酒場漂流記』(CBS・ソニー出版、1983年)で知った。営業開始は14時。通い始めの頃、平日のまだ明るいうちに行って客の少ない店内でのんびり焼酎ともつ焼きを楽しむのは至福の時間だった。その後、超有名店になり、開店前から店先に長蛇の列ができるようになった。ここ何年かはご無沙汰している。懐かしい店なので、今はなき「宇ち入り倶楽部」というサイトから写真を拝借して、思い浮かぶことを書き記す。

昭和レトロな店内。古びているが掃除が行き届いていて清潔感がある。カウンター席と細長いテーブル席がある。
宇ち多゛ - 店内

大半の客は焼酎の梅割を頼む。テーブルに厚手のグラスと受け皿を置き、そこに冷やした焼酎を溢れるくらいに注ぎ入れ、梅のシロップを少し垂らしてくれる。客はテーブル上のグラスに口を近づけ、一啜りした後、受け皿に溜まった焼酎をグラスに移す。梅のシロップを入れると少し甘味が増す。「シロップ少な目」「多め」と注文をつける客もいる。店の人は「このぐらい?」などといいながら気安く対応してくれる。水代わりにサイダーやビールを一緒に飲む人もいる。
宇ち多゛ - 焼酎の梅割

お新香を頼むと、大根と胡瓜の漬け物に紅生姜を乗せ、薄味の醤油たれを少しかけてくれる。大根だけというのもある。小皿で提供され、つま楊枝で食べる。一人客に配慮した営業方針なので、当然ながら、一人客が多い。この店は伝票がない。食べ終わった皿などはテーブルから下げず、それらを数えて会計する。皿は基本的に同じ大きさなので重ねておく。使い終わった串はテーブルに置く客が多い。酒を何杯飲んだかは店の人が憶えている。店の人から「何杯だっけ?」と訊かれることもある。
宇ち多゛ - お新香

アブラ生。アブラはカシラ(頭、こめかみ)のうち白っぽいコラーゲンの部分が多めの串。店の人は「アブラもカシラも一緒だよ」という。いつも最初にアブラ生を頼む。この店のもつは豚でレバー以外は前もってゆでてある。それを軽く焼いて塩やたれなどで味付けして客に出す。生を頼むと焼く前のもつに薄味の醤油たれをちょっとかけ回してくれる。直前まで冷蔵庫に入れているのでよく冷えている。気取っていうとゆで内臓肉の冷製である。もつ焼きは基本的に1皿1種類2本で提供される。テーブルに置いてある調味料や薬味の類は七味唐辛子だけ。
宇ち多゛ - アブラ生

タン生(舌)。絶妙の加減にボイルされたタン。中心部は赤みが残っている。タンは生しかない。すぐに売り切れる。
宇ち多゛ - タン生

シンキ。テッポウ生(直腸、奥)とコブクロ生(子宮、手前)が一本ずつの組み合わせ。テッポウはクニュクニュ、コブクロはシコシコしている。開店直後に売り切れる。テッポウなどの腸類も臭みは皆無。
宇ち多゛ - シンキ

入り口付近に置かれた煮込みの大鍋。煮込みはハツモト(心臓と大動脈の連結部分)やフワ(肺)など部位を指定してよそってもらうこともできる。もちろん鍋に残っていればの話しだが。この大鍋も19時過ぎにはほとんどなくなる。この大鍋の手前や左側にもカウンター席がある。この辺の席は店の人がそばにいるので注文がしやすい。
宇ち多゛ - 煮込み

「煮込み、ハツモト」とか頼むとこんなふうに出てくる。白い管状のものがハツモト。煮込みにはコンニャクや大根などは入っていない。「白いとこ(ハツモトやシロ)」「黒いとこ(フワやレバ)」「脂の多いとこ」などという注文の仕方もある。
宇ち多゛ - 煮込み(ハツモト)

ガツ塩(胃)。ガツは焼き加減が難しい。焼き足りないとゴムのようだし、焼き過ぎると硬くなって嚙み切るのに往生する。この店は申し分ない。妙齢のお姉さんが手際よく焼いている。
宇ち多゛ - ガツ塩

シロたれ(小腸)。「シロたれ、ダブル」と頼むと4本出てくる。部位ごとの入荷量の関係だろうが、シロは比較的遅めの時間帯まである。
宇ち多゛ - シロたれ

レバ生(今はない)。かつてはまったく火を通していないレバ生、つまりレバ刺しが串に刺さったものを出していた。だが、2011年に富山県の焼肉屋で起きた集団食中毒事件以降、レバ生の提供はなくなった。代わりに「レバ、若焼き(レア)」や「レバ、うんと若焼き(ベリーレア)」を頼む。表面だけに火が通って中は赤いままで出てくる。もつ焼きの種類はまだあるが割愛。
宇ち多゛ - レバ生

焼酎は5杯までの決まり。最後に追加で焼酎を半量だけ頼めるので、実際は5杯半まで。来店時に既に飲んでいる客は店に入れない。

2014年正月にもらった年賀タオル。この写真だけ自前。
宇ち多゛- 年賀タオル

この店のもつ焼きや煮込みは東京でも指折りだと思う。焼酎の梅割もうまい。それでいて勘定は安い。店の人も気持ちがいい。立石に住んでいる人が羨ましい。実は立石には昔から住む親戚がいる。そこの叔父さんは「宇ち多゛」ではなく、すぐ隣のもつ焼き屋の「ミツワ」に行くそうだ。これもまた羨ましい。

京成立石駅を挟んで反対側の北口にある「江戸ッ子」というもつ焼き屋もよかった。だが、「江戸ッ子」は再開発に伴って2023年7月に閉店した。京成立石駅周辺は現在北口の再開発が先行して進められている。南口の再開発が具体化すれば、「宇ち多゛」や「ミツワ」を含む駅前商店街の店は立ち退き移転か悪くすれば閉店だろう。


宇ち入り倶楽部
篤志の常連客が運営していたサイト。2016年頃に閉鎖された。上記リンクはウェイバックマシンにアーカイブされたもの。

店名の「宇ち多゛」の「多゛」は正しくは下の変体仮名。
変体仮名 - 多゛


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