八岐の園

ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる短編「八岐の園」は19篇からなる短編集『伝奇集』(1944年)所収。篠田一士訳(集英社、1975年)で読んできた。原題: El jardín de senderos que se bifurcan、英題: The Garden of Forking Paths。「八岐の園」のあらすじを以下に記す。

第一次世界大戦下の英国。連合国側はドイツ軍への大規模な攻撃を計画していた。青島の高等学校の元英語教授でそのときドイツのスパイだった兪在博士は連合国側の陣地の場所を探り当てたが、連合国側の追手が迫り、ドイツにいる上司への連絡の手段もなかった。

兪在は、追手を間一髪でかわし、電話帳から見つけたスティーヴン・アルバート博士の家を訪ねる。支那学者のアルバートは兪在を迎え入れ、兪在の曽祖父である崔奔の残した一冊の本と迷路について語る。

崔奔は生まれた地方の知事にして有名な詩人で書家だったが、一冊の本と迷路を作るためにすべてを放棄した人物だった。崔奔が死んだとき、乱雑で一貫性のない草稿は残されていたものの迷路は見つからなかった。

アルバートは崔奔の一冊の本と迷路の秘密を解き明かし、曾孫の兪在はそれに耳を傾ける。そのとき、アルバートの家の庭に連合国側の追手の気配がした。
(あらすじはここまで。)

ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、篠田一士訳『伝奇集』(集英社、1975年)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス - 伝奇集

アメリカの推理小説批評家のアンソニー・バウチャーは「八岐の園」を英訳し、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』1948年8月号に掲載した。これがボルヘスの英語圏へのデビューだった。「八岐の園」が推理小説というのには首を捻るが、それでも掲載したのは慧眼だと思う。


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