セミフ・カプランオール監督によるトルコ映画『卵』(2007年)。監督自身の半生を題材にした「ユスフ3部作」の第1作。主人公ユスフの壮年期が描かれる。原題: Yumurta、英題: Egg。写真はアイラ(サーデット・ウシュル・アクソイ)。
オープニングのシーン。朝もやの中、田舎町の郊外を一人歩く老婦人が映し出される。ユスフの老母ゼーラ(セムラ・カプラノグル)である。歩いて行くその先は、後のシーンから、彼女が埋葬される墓地と思われる。
詩人のユスフ・キョクサル(ネジャト・イスレーシュ)はイスタンブールで古本屋を営んでいた。若い頃に文学賞を受賞したが、現在の創作活動は停滞していた。深夜一人で酒を飲みながら閉店の支度をしていると、母ゼーラの死を知らせる電話が入る。電話してきたのは親戚の娘アイラだった。
ユスフは長い間帰っていなかった故郷ティレに車を走らせる。そこには母ゼーラが寂しく待っていた。
母が住んでいた古ぼけた家にはアイラがいた。アイラはラフミ叔父の孫娘で高校生だった。アイラはゼーラと一緒に暮らしていた。ユスフはそのこともラフミ叔父が4年前に亡くなっていたことも知らなかった。ユスフは葬儀が終わったら、すぐにイスタンブールに戻るつもりだった。だが、アイラはゼーラが願掛けして仔羊を犠牲に捧げると誓っていたことを話し、ユスフが母に代わってそれを実行すべきだという。
ユスフは予定を変えて亡き母の望みを叶えることにする。仔羊を犠牲にする儀式を行うため、ユスフはアイラとともに聖人の墓のある場所に向かう。
途中、親戚の家に立ち寄る。二人は惚け気味の老婦人から夫婦と間違われるが、年配者の顔を立て、あえて訂正もせず話を合わせる。
仔羊は放牧中で手に入らなかった。明朝また来ることにして、二人は景勝地ギョルジュクのホテルに宿泊する。母ゼーラはユスフが帰ってきたらアイラと3人でギョルジュクに行くことも望んでいた。写真はギョルジュク湖畔の二人。
ギョルジュクのホテルで二人は結婚式に遭遇する。ダンスに興じている人たちを見物して、気持ちが和む。
翌日、ユスフは仔羊を生け贄に捧げる。
母の望みを叶えたので、ユスフはイスタンブールに帰っていく。その夜、ユスフにある出来事が起きる。
ユスフは翌朝またティレに現れる。アイラはにこやかに迎え、二人は言葉少なに食事をとる。
ユスフは詩人として身をたてるために母親を故郷に残して都会に出た。母親の葬儀のために久しぶりに故郷に戻り、昔馴染みの親戚や友人と再会し、旧い価値観に再び向き合う。親戚の若い娘アイラは素朴で美しく聡明で、若い頃のユスフと同じように、進学のため都会に出ることを考えている。終わりのほうにユスフが泣き伏すシーンがある。変わらないものと変わってしまったもの。得られたものと失ったもの。様々な感情が押し寄せたためだろう。ただ、この作品はそうした意図を説明しない。暗示するだけだ。
EGG - YUSUF TRILOGY PART 1 / Trailer - YouTube
予告編。
コメント