葡萄舎

神田の古ぼけた居酒屋。「ぶどうや」と読む。髪を後ろに束ねた年配のご主人とご主人が妹という年配の小柄なご婦人の二人でやっている。神田駅近くの雑居ビルの5階。場所が分かりにくいせいか、空いていることが多い。テーブル同士が離れているし、夏場は窓を開け放しているので、ゆったりした空気が流れている。壁や床には木が使われ、山小屋風でもある。壁際には年代物のタンノイのコーナー型スピーカーが1台置いてある。料理は和洋中の混在でどれもおいしい。近年はランチタイムのインド風カレーで人気らしい。

葡萄舎は生年月日が全く同じ神戸出身の友人(以後、誕生日が同じ友人という)とよく行った。近くの喫茶店でカードゲームのブリッジをすることも多かった。先日しばらく往来のなかったその友人に連絡したら、久しぶりに葡萄舎で会うことになった。

6月某日夕刻、店に行く。店内にはご主人と先客が一人。妹さんの姿はない。ご主人に「カレー?」と訊かれる。この頃は夜の部に酒ではなくカレー目当てで来る客もいるのか。「いえ」「もう一人来ます」と答えると、窓際中央の大きな四角いテーブルに案内して、「ここを使って」という。瓶ビールを頼み、マスクを外して待つ。瓶ビールを運んできたご主人が「やあ久しぶり」「マスクをしてたから分からなかった」と軽く肩をたたく。以前からこんなにフレンドリーだったかな。

ビールをグラスに注ぐ間もなく、誕生日が同じ友人が到着した。再開を祝して乾杯。友人は今はお酒は3カ月に1回飲むくらいだそうだ。二人でエビスビールの中瓶を4本飲む。ご主人が追加を運びながら(ホール担当は妹さんのはずだが今夜はまだ見ない)、「あれ、前は日本酒だったよね」という。この店は立山の冷やを片口で出す。いつもそれを頼んでいた。だが、二人ともスタイルが変わった。のんびりビールを飲みながら、さもない話しをする。2時間ほどいて店を出た。こういうあっさりした交友は気持ちがいい。旧い友人と気心の知れた店ならではだろう。

Grape Picker, Berryessa, California (1956) by Pirkle Jones
Grape Picker, Berryessa, California (1956) by Pirkle Jones

葡萄舎の看板。
葡萄舎


葡萄舎風の葉玉ねぎの玉子炒め

Grape Picker, Berryessa, California | The Art Institute of Chicago

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