支那のユーモア

林語堂『支那のユーモア』(岩波新書、1940年)。林語堂が1930年代に英文で書いた短編を収録しており、中国人のものの考え方が中国人らしいユーモアを交えて語られる。訳者の吉村正一郎は映画監督の吉村公三郎の実兄。

『支那のユーモア』の訳者後記に林語堂が出していた同人誌『論語』の表紙裏に掲げられていた「論語社同人戒條」が引用されている。訳者は「これらの戒律は彼の面目を図式的に伝えたものとして興味がある」と記している。以下に引用する。

論語社同人戒條
  1. 革命に反せず。
  2. とるに足りない人間を論評せず。ただし吾人の尊重する人間に対してはつとめて論評を尽くしたい。
  3. 口を開けば人を罵ることをなさず。
  4. 人様から金銭は頂戴せぬ。他人の提灯は持たぬ。
  5. 宗匠流の尻馬には乗らぬ。お偉い方の尻馬はなおさら御免こうむる。
  6. 仲間褒めはせぬ。歯の浮くようなことには反対。
  7. 棺桶に片脚突っ込んだような詩や柳暗花明的な詩は掲載しない。
  8. 公平を売り物にせず。着実な私見のみを談ず。
  9. 他人の好みに干渉せず。
  10. 自分の文章を良くないなどとは言わない。
林語堂は評価の分かれる人物でもある。一貫した考えを持つ思索家というよりも、ああ言ったりこう言ったりという御都合主義的な傾向がある。また、時代背景もあって反日的な言説が目立つが、とてもフェアな主張とは思えない。だが、文筆家としては気が利いている。ややこしい人だ。


1939年の林語堂 。当時はアメリカに移住し、日本の中国侵略に抗議する執筆活動を行っていた。
林語堂

吉村正一郎訳『支那のユーモア』(岩波新書、1940年)。写真は特装版。
支那のユーモア

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