中央線の西荻窪駅南口にある台湾料理を出す大衆居酒屋。赤いデコラ張りのカウンターと小テーブルの煤ぼけた小さな店だ。あまり行かないが、好きな居酒屋の一つ。
この店では最初に瓶ビールと豚足を頼む。豚足は中華風に醤油味で煮込まれ、小粒のニンニクを潰し入れた醤油だれと一緒に出てくる。中華圏で滷味(ルーウェイ)とよぶ料理かも知れないが、確かめたことがない。柔らかく煮上がった豚足が好みなので、そう指定して頼むこともある。
瓶ビールの次に老酒を頼む。甕から厚手のグラスに注いでサービスする。いつも酒がグラスのふちから表面張力で盛り上がっている。よく溢さないものだ。料理は煮玉子、セロリ、手羽先や豚の内臓肉の醤油煮などのうちから追加で注文する。セロリは生のままで塩を添えて出す。さっぱりして口直しによい。
2杯目の老酒と一緒に焼きビーフンを頼む。焼きビーフンは濃厚な味付けで脂っこく仕上がっている。以前はもっとあっさりしていたように思うが、気のせいか。だいたいこの辺で勘定してもらう。
今の店主は二代目。飲み屋で店の人と余計な話はしないほうだが、この店ではときどき雑談する。そうしたこともあって、2019年12月に台湾に行ったとき、台北の行天宮で長い行列に並んで春聯(しゅんれん)をもらってきた。中華圏で春節(正月)に家の玄関などに貼る御札である。日本の正月の門松や注連飾りにあたるものだろう。大小数枚がセットになっていた。東京に戻ってから、その1組を店主に持参した。店主は一瞬何なのか分からないようだった。だが、利発な人なので、すぐに話を合わせてくれた。店を創業した父親は台湾人だが、もう正月に春聯を貼るような習慣はなかったのだろう。家に持ち帰って、家族の話題にでもしてもらえたら、よかったのだが。
『琺瑯彩碗』(18世紀、景徳鎮窯、クリーブランド美術館蔵)
Bowl | Cleveland Museum of Art
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