武田百合子『犬が星見た』(中公文庫、1982年)。1969年に夫の武田泰淳、夫の友人の竹内好との三人でロシアを旅した旅行記。武田百合子『犬が星見た ロシア旅行』(中央公論社、1979年)の文庫化。初めのほうから少し引用する。
6月14日 晴 ハバロフスク
朝食まで、一人で散歩に出る。一人がいい。好きな方角に足を向け、好きなところに、好きなだけいられる。
〈写真はメモ代わりだからな。何でもかんでも写せ〉そう言っている主人には、昨日何でもかんでも写していたはずの写真機に、フィルムが入っていなかったことは黙っていよう。バカといわれるから。散歩のついでに、レーニンの銅像など、もう一度写しておかなくちゃ。
(引用はここまで。)
無類の面白さ。同じ著者の『富士日記』よりも楽しめる。その場の情景を直感的かつ簡潔に捉える表現力に感心する。武田百合子は天賦の語り手だ。
犬が星見た -武田百合子 著|文庫|中央公論新社
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