洪愛珠『オールド台湾食卓記』(筑摩書房、2022年)。グラフィックデザイナーが本業の著者のデビュー作。台湾の文学賞をいくつも受賞した。新井一二三の翻訳もよい。赤地に桃饅頭の表紙は著者のデザイン。原著は『老派少女購物路線』(遠流出版、2021年)。
多民族国家の台湾で過半を占める福佬人(福建省からの移民)の家庭の娘として育った著者が、母親の早世をきっかけに、子どもの頃からの日常の暮らしや食事を振り返りながら綴った懐古的な読み物。
祖母の実家のあった台北市の大稲埕での買い物。母や自身が生まれ育った新北市の蘆洲の湧蓮寺の賑わい、龍鳳堂餅舖の伝統菓子、大廟口切仔麺などの切仔麺や黒白切。家にお客を迎える際のもてなし料理。滷肉、糖烏、兜麺、芋棗などの家庭料理。母が京都の有次で滷肉のために毛抜きを買う話。凡百のガイドブックなどでは見かけない料理や店が数多く登場し、興味深い。
30歳代後半の洪愛珠は昔ながらの大家族で祖父母の影響を受けながら育っている。伝統的な生活習慣や食習慣あるいはものの考え方をよく継承している一番の理由だろう。核家族化の進んだ東京で生活する者としては、世代間の断裂によって失われたものの大きさや貴さを感じないではいられない。
筑摩書房 オールド台湾食卓記 ─祖母、母、私の行きつけの店 / 洪 愛珠 著, 新井 一二三 著
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