No Destination

私が生まれる前、まだ私が母のお腹のなかにいた頃、母はよく夢を見た。いつも同じ夢だった。

長い髭の年老いた賢者が母と一緒に象の背中に乗って、森に入って行く。賢者は母に金と宝石の国に連れて行くと約束した。母は「なぜ、象に乗って行くの」と訊ねた。「馬に乗って行きましょう。そうすればもっと早く着ける」。賢者は「私は道を知らない。象だけが道を知っているのだ」と答えた。母は「それはおかしい。馬は象よりもずっと利口よ」といった。賢者は「これは利口かどうかの問題ではない。正しい道を行くかどうかの問題なのだ」と答えた。母の夢はいつも賢者と象の背に乗っているままで終わった。目的地にたどり着くことはついぞなかった。
Kalinga Brahmins are Given the White Elephant

以上、インド生まれのイギリスの社会思想家サティシュ・クマールの自伝の冒頭部分。拙訳。上の画像は19世紀のタイの絵に描かれた白象(ウォルターズ美術館蔵)。

このエピソード自体はサティシュ・クマールのその後の生き方を暗示する隠喩なのだろうが、こんな夢なら子どもの頃に一度見てみたかった。


No Destination: Autobiography of a Pilgrim (1978) by Satish Kumar、Green Books。
Satish Kumar - No Destination

Vessantara Jataka, Chapter 2: Kalinga Brahmins are Given the White Elephant | The Walters Art Museum

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