黒白切

食べもので目下の関心は台湾料理。台北の台湾料理の老舗で頼んだ炒め物や揚げ物は油が多すぎて箸が伸びなかったし(肉まんの表面は油でペトペト、筍の煮物まで油まみれのお国柄では致し方ないのだろう)、砂糖などの調味料も使い過ぎのように感じた。だが、魅力的な料理もたくさんある。

例えば、ゆでた豚の内臓をスライスして好みのたれで食べる黒白切(ヘイバイチェ)。台湾では酒を気兼ねなく飲める店が少ない。歩道にテーブルを並べたような麺の店に副食用のゆでた内臓が並んでいるのを見かけると、見繕いで切ってもらってビールと焼酎でもと思うのだが、吉野家で昼から酒盛りをするようでちょっと気が引ける。それに、黒白切などのために台湾に出掛けるのはもっとハードルが高い。

ここは何とかして家で黒白切を作って晩酌の肴にしたいのだが、内臓の下処理はどうするのか、どのくらいの火加減でどのくらいの時間ゆでるのか、火を止めたらそのまま放置するのか水で冷やすのか、素人には「豚の内臓をゆでる」といった程度の説明では皆目見当がつかない。

焦桐『味の台湾』(みすず書房、2021年)の「黒白切<ゆでた豚のモツと頭肉>」の章を読むと、「黒白切は閩南語で、気ままにいくらか料理を切り合わせるという意味」「おもには豚のゆで肉とゆでモツ」「黒白切はほとんどの場合、ゆでた形で提供され、店の自家製の調味料をつける」「それぞれ別にきれいに下処理をしてやらないといけない」「それぞれの部分は性質が異なるので、調理に必要な火加減もしぜんと変わる」「黒白切は路傍の小店か小吃を扱う店にしか見られず、一定の規模を備えたレストランではほとんど目にしない」「黒白切はまるで短いエッセイのように、労働者階級の美食に属し、自由自在の趣がある」など縷縷説明がある。ただ、具体的な調理方法はない。

葛飾区の京成立石駅前のもつ焼き屋「宇ち多゛」のゆでた豚の内臓、なかでもアブラ生とタン生は何度か再現を試みた。店では生と呼ぶが、アブラはゆでた豚の頭肉の白い部分(脂ではなくコラーゲンだろう)、タンは豚の舌を中心部に赤みが残る程度にゆでたものだから、黒白切のお仲間だ。しかし、火の通し加減が分からず、加熱が不充分になることを恐れて、ゆで過ぎてしまう。店で食べるような歯ごたえがない。立石や台湾と同様、黒白切への道のりも遠い。


味の台湾 | みすず書房
味の台湾


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