多田等観著『チベット』(岩波新書、1942年、特装版1982年)。多田等観は僧侶、仏教学者。1890年に生まれ、1967年に没した。明治末から大正にかけてチベットに入り、ダライ・ラマ13世の庇護の下、同地のセラ寺でチベット仏教を修めた。日本への帰国に際して貴重な仏典、文献を多数持ち帰った。
多田等観著『チベット』(岩波新書、1982年)。
「序」にこの本が執筆された経緯が記されている。
私は明治四十四年五月、京都を訪れた西藏の僧正デトル師に就いて始めて西藏語を學んだ。そして、翌四十五年一月には、この僧正に同行して印度に渡った。ヒマラヤ山中で、當時、佛蹟巡拝のため印度に錫を駐めてゐた西藏國王ダライラマ第十三世に謁見し、西藏入國の希望を述べて、認可と便宜の提供とを得た。 ダライラマと僭正とが歸國した後、ダーヂリンに在って拉薩の貴人について専心西藏語の學修を繼續した。 一ケ年半に及ぶ準備が終ると、大正二年七月、私はブータン國を通り、炎暑と戰ひ、ヒマラヤの山險を越え、地方民の迫害を忍び、英國官憲の妨碍を冒して、西藏入國を決行し、約三十五日にして首都拉薩に到著した。それから聞もなくラマ教の寺院に入った。爾來十年間、私は僧院に起居し、ラマ教の研究に没頭し、その實際的な生活を體験した。大正十二年春、許を得て再び印度に出でて歸朝したのである。 在藏中に、親しく見聞した實情を基礎に、勧められるまゝに國情の一般を敘述したのが本書である。
ときどきチベット仏教に関する本を読む。本書もそうした一冊。多田等観はこの時期のチベット仏教と最も深い係わりを持った日本人ではないかと思う。
チベット/多田 等観|岩波新書 - 岩波書店
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