腕時計物語 1 M&Co.

腕時計は手元に3本ある。どれも1万円台というごく普通の価格帯のものだ。最古参は米国のM&Co.のBodoniというクオーツ式の腕時計である。M&Co.の腕時計を購入したのは若い頃に使っていたスイス製のモンティリエ(Montilier)の手巻きの腕時計に似ていたからだった。

M&Co. Bodoni Brass Watch
M&Co. Bodoni Brass Watch

生家の向かいはK時計店という時計屋さんだった。モンティリエの腕時計はその時計屋さんの先代のお父さんが薦めてくれた。もう手巻きの時代ではなかったから、デッドストックだったのだろう。そのお父さんは裏ブタを開けて、内部のムーブメントがいかに優れているか説明してくれた。価格は2万円以下だった。この金色(真鍮色)の腕時計は薄手でとても気に入っていた。だが、自分の不注意で紛失してしまった。新品はもう手に入らない。骨董市などで中古品をだいぶ探したが、見つけることはできなかった。今もときどきeBayでその腕時計を探している。

しばらくして、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のミュージアムショップのカタログでそのモンティリエに似た腕時計を見かけた。すぐに海外通販で注文したのがこのM&Co.のBodoniである。M&Co.の創業者のティボール・カルマンがデザインしたもので、価格は135ドルだった。M&Co.はニューヨークの会社だが、製造はスイスで行われていた。裏面には「Waste Not a Moment(一刻も無駄にするな)」という刻印がある。M&Co.の腕時計は長い間使った。三越本店でオーバーホールに出したときは時計売り場の人が「素敵な時計ですね」と褒めてくれた。

しかし、この時計も10年ほど前に風防ガラスを壊してしまった。もう販売が終了しており、交換用ガラスは入手できない。結局、東急ハンズ池袋店の「時計の病院」で修理してもらった。ただ、オリジナルとは異なるガラスを細工して嵌めたので元通りとはいえず、リューズ(竜頭)の具合もよくない。使う機会はめっきり減った。ここしばらくは自室の机の上に置きっぱなしになっている。思いきって廃棄したものかどうか、この時計を見るたびに考えてしまう。

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