吐噶喇列島の口之島の伝統行事に関する3回目(最終回)。口之島には古代の神祭りを彷彿とさせる「霜月祭り」が伝えられている。写真は高天原で神楽を上げる巫女のネーシ。
霜月祭りは旧暦11月(霜月)の初寅の日から始まり、14日間続く。「ネーシ(内侍)」と呼ばれる巫女はこの間毎朝浜辺に通い、海水で身を浄める。
ネーシは島に自生する琉球竹の葉に海水をつける。これを「セパナ」という。セパナは神々への供え物になる。
ネーシは村外れの「高天原」に行き、セパナを供えて、場を浄める。
高天原には地元で聖なる木と呼ぶヒトツバ(イヌマキ)の木がある。霜月祭りで神々を呼ぶ神聖な場所である。口之島には高天原の他に「東の宮」と「西の宮」という2つの聖地がある。
旧暦11月は里芋や水芋(タロイモ、写真)の収穫時期にあたる。
霜月祭りは里芋や水芋(写真)の収穫を祝う祭りであり、島の繁栄を祈る祭りでもある。
村の中心地は「トンチ(殿地)」と呼ばれる。今は公民館が建つ。公民館の2階の座敷に、霜月祭りの間、祭りを行う神役たちが集まる。最後の4日間、神役たちは毎朝「ヨパレ(呼ばれ)」という食事をとる。空腹の状態で神事を行ってはいけないからだ。
ヨパレが終わると、ネーシは頭に昔のネーシの髪の毛を2束つけ、「赤テンゲ」と呼ばれる赤い手拭いで包む。こうして普通の人間ではない特別の存在になる。公民館の座敷は霜月祭りの最後の大祭りのときに神々を呼ぶ場所になる。ここを「神所」という。
旧暦11月19日。霜月祭りの大祭りの2日前の夕方、神役たちは高天原に集まる。ネーシは赤い衣を着る。太鼓と摺鉦に合わせて、ネーシが神楽を上げる。
ネーシは鈴を振りながら神々の名前を呼ぶ。この神楽を「十二カミの大セク」という。「十二カミ」は12の神々、「セク」は神楽のことである。日本の巫女神楽の古い形を伝えると考えられている。
旧暦11月20日。宮下りの日。祭りの手伝いをする「ミョード(宮人)」が集落を回って、神に供える芋を集める。集められた芋は東の宮で皮をつけたまま大釜で茹でられる。芋が煮える間にも大祭りの準備が進められる。煮えた芋は東の宮の神々に供えられ、すぐに下ろされる。神のお下がりは「ミヤシト」といい、参列者がその場で食べる。神と同じものを食べることで収穫の喜びを分かち合うのだ。
旧暦11月21日。霜月祭りの最終日に大祭りが行われる。大祭りの神事は西の宮から始まる。
西の宮の祠が開かれ、前日に採って来た「化粧土」と呼ばれる赤土で祠の決められた場所に赤い丸を描く。その後、米の飯の供え物が上げられ、祠が再び閉じられる。最後に、ネーシによって十二カミの大セクが上げられる。西の宮での神事が終わった後、東の宮で神事が行われている。ここでも最後に十二カミの大セクが上げられる。
ネーシや神役らの一行は公民館に戻る。公民館で芋のヨパレが行われる。最後にネーシによって十二カミの大セクが上げられる。
以上、だいぶ端折ったが、NHK『ふるさとの伝承』の「口之島の霜月祭り・イモの収穫儀礼」(1997年4月13日放送)による。
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