ホセ・フェリシアーノの歌うアメリカ国歌

ホセ・フェリシアーノはプエルトリコ出身の歌手、ギタリスト。1945年に先天性緑内障のため盲目で生まれた。彼が5歳のとき、一家はニューヨークのスパニッシュ・ハーレムに移住し、彼はそこで育った。

1968年10月7日、ベトナム戦争の最中(言い方を変えると、ベトナム戦争に反対する抗議運動でアメリカ国内が騒然としていたころ)、弱冠23歳のホセ・フェリシアーノはデトロイトのタイガー・スタジアムで行われたワールドシリーズ第5戦のデトロイト・タイガース対セントルイス・カージナルスの試合前のセレモニーでアメリカ国歌「星条旗(The Star-Spangled Banner)」を独唱した。
José Feliciano - The Star-Spangled Banner (1968)

1968 WS Gm5: Jose Feliciano performs natonal anthem - YouTube
MLB公式アカウントによる動画。
José Feliciano - The Star-Spangled Banner (1968)

The Star-Spangled Banner - José Feliciano - YouTube
試合を報じたNBCニュース。ホセ・フェリシアーノの伝統的ではない歌い方に多くの抗議があったというコメントとともに、2分30秒頃から上記と同じ映像が流れる。ちなみに、この試合はホームチームのデトロイト・タイガースが5対3で勝った。シリーズは第7戦までもつれ込んだが、デトロイト・タイガースが4勝3敗で制している。

このときにホセ・フェリシアーノが歌ったアメリカ国歌はソウルフルで素晴らしい。だが、当時のアメリカ国内では彼のラテン風の歌い方が「国歌を冒涜している」と物議を醸したのだそうだ。彼に政治的な意図があったとは思えないが、何かあるとすぐにそうした批判に晒されるような時代背景だったのだろう。

一方、注目を集めたその歌唱はその後シングルカットされ、ビルボードホット100で5週間チャートインした。アメリカ国歌がアメリカの音楽チャートに登場したのはこれが初めてだったそうだ。

1968 HITS ARCHIVE: The Star-Spangled Banner - Jose Feliciano (mono 45) - YouTube
45回転シングル盤が音源。

大谷翔平など日本人選手の活躍から日本でもMLBのテレビ中継が増えた。試合前のセレモニーでは様々な歌手が趣向を凝らしてアメリカ国歌を熱唱する光景に接する。だが、このときのホセ・フェリシアーノのように長く記憶に残る歌い手はあまりないのではないだろうか。

コメント