檀流クッキング

檀一雄『檀流クッキング』(サンケイ新聞出版局、1970年)。料理は苦にならないほうだ。実家で教わったのは米の研ぎ方と水加減、胡瓜もみくらいだった。たぶん夏のことだったのだろう。祖母が「これからは男も料理を作れないといけない」と教えてくれた。ただ、このとき1回だけだった。料理の味加減は慣れ親しんだ実家の味が基本だが、具体的な作り方はもっぱら本で習った。

一番お世話になったのは小説家の檀一雄の書いた『檀流クッキング』だ。檀一雄は小学生の頃に母親が出奔し、家族のために料理を始めた。年期が入っている。

この本の特徴として第一に説明が簡潔。もともと新聞の連載記事なので、説明に過不足がなくて、手順など分かりやすい。また、読み物としても面白い。

第二に和洋中の各方面の料理に及ぶ。定番の家庭料理から外国のエキゾチックな料理まで幅広く紹介している。この本1冊でかなりのレパートリーが身につく。

第三に材料や調味料の分量を明示しない。例えば、味付けについては「吸い物よりも少し濃い目」といった説明だ。計量の面倒がなく、自分の舌にしたがって作るので自然に自分好みの味になる。そのため、この本で作ると(自分にとって)おいしい料理ができる。ただ、全般な味の傾向は薄味のほうだと思う。ちなみに、檀一雄は福岡県の出身だ。

第四に料理好きの素人が自分で書いている。プロの料理人や料理研究家による料理本は他人が書いたものが多い。特に最近のものはビジュアル偏重で、写真はきれいだが、肝心なところが分かりにくい。この本は素人が実践によって体得したものを自分で書いている。素人にとって分かりやすい。

第五に酒飲みの男性が書いている。当然、酒飲みの男性が好みそうな料理がよく登場する。

檀一雄は料理の見た目よりも作りやすさや実直さを重視している。また、プロの料理人の料理を好まないところがある。『檀流クッキング』はお洒落で見映えのする料理を作りたいという人には向かないと思う。


檀流クッキング -檀一雄 著|文庫|中央公論新社
サンケイ新聞出版局から1970年に出た単行本も持っている。単行本には写真がついているが、文庫本のほうが手軽だ。
檀流クッキング

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