杉浦明平『カワハギの肝』(六興出版、1977年)。この本で杉浦明平が愛すべき食いしん坊であることを知った。おまけに田舎生活のなかで食の楽しみを求めており、地方出身者として親近感がある。楽しい食いものエッセイだ。長年の枕頭の書でもあり、夜半に読みだすと、睡眠時間が短くなってしまう。「食いもの談義」から少し引用する。
食いしんぼうは、うまいものが食いたいというだけでなく、今まで味わったことのない珍しいものが食いたいという二つの重なる欲望をもっている。
たしかに食べたことのないものを食べたがる人と食べたがらない人と二種類ある。「ふるさとの味」からも少し引用する。
京都へ行ってあきれるのは、たらぼうだの、朝がゆだの、湯豆腐などを、さも高級料理らしく、千円以上の金を取って食わせていることだ。干ダラと里芋でどのように細工しようとも、上等な料理になるはずがない。
同感する人は少なくないだろう。「青首大根」からも若干引用する。
毎日二度の食事(私は昼と晩の二度である)の最後は、塩こんぶとみじん切りにした漬菜を入れてお茶漬ということにきめてある。漬菜の種類は、そのときどきにとれる小カブ、白菜、カラシ菜、ミズ菜、クレシン等いろいろだけれども、十日のうち七日は大根の葉っぱである。
都会に生まれ育った人はこの本を面白いとは思わないかもしれない。
『カワハギの肝』(六興出版、1976年)。版元の六興出版は特色のある出版社だった。『カワハギの肝』は今は光文社文庫から出ている。
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