あしたから出版社

島田潤一郎『あしたから出版社』(ちくま文庫、2022年)を読む。大学卒業後、アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目ざしていた本好きの島田青年は、編集業務の経験もないまま、2009年に33歳でひとり出版社の夏葉社を創業する。「はじめに」から少し引用すると、

本当は就職をしたかったのだ。
みんなと一緒に机を並べ、残業なんかもこなして、たまに、同僚からのお土産が電話の横かなんかにちょこんと置いてあって、それで、「いいなあ、山田さんは北海道に行ったんですね」などと、となりの人と話したかったのだ。
でも、できなかった。
一度レールから外れてしまうと、社会は、まったくといっていいほど、ぼくのことを信用してくれないのだった。

夏葉社の名前は知っていたし、2冊目に出した関口良雄『昔日の客』(夏葉社、2010年)も読んでいた。でも、こういう人が創業していたとは。書かれていない苦労もあったろうが、本好きの人間を明るい気持ちにさせてくれる1冊。頭木弘樹の解説も心がこもっている。


筑摩書房 あしたから出版社 / 島田 潤一郎 著
あしたから出版社

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