嶺吉食堂

沖縄には毎年のように行った。東京から昼頃に那覇に着く飛行機に乗り、那覇空港に着いたら、その足で那覇港近くの茫漠とした一角にある嶺吉食堂に行った。オリオンビールの生と、てびち定食か煮付け定食あるいはてびちそばを頼む。生ビールを一口飲むと「沖縄に来たんだ」という気持ちになり、料理を食べ終える頃には沖縄に来た目的の過半が充たされたような気分になった。
嶺吉食堂

嶺吉食堂は古びた大衆食堂だ。一家で営んでいるらしく、小柄で快活なおばあさんが客の注文をさばいていた。小さな受け渡し口の向こうの調理場では数人が忙しく立ち働いている。客は地元の親子連れ、スーツケースを脇に置いた旅行客、漫画に読みふける作業服姿の若い男、所在なげな老人など様々だ。おばあさんと親しげに話す馴染み客もいれば、ガイドブック片手の観光客もいる。小上がりで食後昼寝をしている客もいた。大鍋持参で名物のてびちを買いに来る客もある。料理はもちろんおいしかった。緩やかに吹き抜ける風のような沖縄感が何とも自然で心地よかった。

嶺吉食堂は立ち退き問題などで2013年末に閉店した。その後、10年近く沖縄には行かなかった。

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